Vaio Z21シリーズデビュー

ついにこの日が来ましたね。ソニーヨーロッパでZシリーズの後継機種(以下「VAIO Z21」)が発表となり、ちょうど一週間後に日本でもZ21が発表になりました。
それに伴い実機がソニーストアに展示され、僕も実機を見ることができたのでその感想を記しておきたいと思います。

まず、なんといってもその薄さです。数字にしますと16.55mmのボディであって、フルフラットボディなので、「最薄部」16.55mmなんていう生やさしいものではなく、本当に薄いマシーンでした。ソニーストア名古屋では、店員さんにお願いすると、PCのセキュリティーを外して下さり、試しにかばんの中に入れるてみることができるようでした。実際にやっていらっしゃる方がいて、とても持ち運びがしやすそうでした。

またなんと言っても超軽量で、1.15kgのボディとなっています。ちなみに比較として1.15kgといえば、 VAIO Tシリーズの最終モデル(TT)が1.14kgであったこと、11インチのMac book airが1.06kg 、(13インチMac book airは1.32kg)であることから、ほぼ11型のUMPCの重量で、13.1型の通常電圧CPU搭載の超高性能PCを実現したという恐ろしい機種であることがわかります。

この薄さ、軽さ実現のためにドライブとGPUを外付けに回したわけですが、外付けになった理由もいくらか公開されてきました。
こちらの記事によれば、CPUの進化と内蔵グラフィックスの進化によって、従来機種の外部GPUと描画性能に違いがなくなってきた、とあります。すなわち外付けの外部GPUを取り付けなくても、一台前のZシリーズ(Z1)と同等の描画性能となります。


この事実は、外部GPUが内蔵されなかったことに対して悲嘆にくれた人に対して、ある程度の安心を与えているでしょう。従来機種と同等のグラフィックス性能を、GPUに頼らずして実現していて、前機種からのダウングレードではないということになります。もちろん、Power Media Dock(PMD)を搭載することで従来機種の2倍程度の描画性能を発揮し、CADやゲームなどで進化を発揮します。

さて、前回のエントリーで「Zシリーズはソニーにとっての挑戦のモデルではないか?s外付けドライブ、GPUという判断も挑戦的な試みとして捉えることができる」みたいなことを書きました。案の定ポロポロ出てきた開発秘話系の中でも「挑戦」という言葉が多用されていて、本当に今回のZシリーズは「挑戦的な」PCであることがうかがい知れます。(たとえそれがマーケティング的発言であったとしても)今回はどうしてZシリーズがこのような大きな変革をしたのか少し考えてみたいと思います。

Zシリーズ(旧tyoeZ)は「技術を最大限詰め込んだ、ソニーの究極のモバイルPC」という信者的な側面を除いて考えれば、「従来のモバイルPCの弱点を潰す」モデルとも受け取れます。すなわち、従来のモバイルPCは「軽い、けど性能はそこそこ」といったものでした。当時のモバイルPCの定義は「重量2kg以内、贅沢言えば1.5kg以下」であれば、モバイルPCとして認知してくれました。あまり「薄さ」は大きなファクターではなかったように思えます。そういう環境下で生まれてきたのが初代typeZ(Z90シリーズ)ではないかと思います。
つまり、「モバイルPC」として認知できるほどの軽さ、そしてモバイルPCが抱える低性能という弱点を補強する「通常電圧CPU」「高解像度液晶」「外部GPU」といったものを詰め込んだモデルと考えることができます。当時のソニーが送り出したいモバイルへの道筋だったと思うのです。
また次のZシリーズのモデル(Z1)でも同様な考え方をしていると思います。なのでコンセプト自体を大きく変えることなく、Z90の良いところをさらに伸ばし、あのモデルができあがったのだと思います。

しかし、今回のモデルチェンジはガラっとその性格を変えてきました。それはやはりZ1からZ2への間にモバイルPCに対する要求が変わってきたからだと思います。

その原因のひとつに、タブレット端末の発展が挙げられます。
Z1が発表されてから1年半の間に、スマートフォンが飛躍的に普及し、さらにタブレット端末も市民権を得て来ました。タブレット端末は一応「PC」の分類に分けられるようで、これがモバイルPCに対する要求を大きく変革させました。
従来PCでしかできなかった、ある程度大きさを持った液晶での「ブラウジング」「メール」「SNS」といったライトユースのほとんどをタブレット端末上で行うことができるようになりました。そして、タブレット端末のいいところは、なんと言っても「薄さ」「軽さ」「高速起動」といったところです。こういった優れた点が「いつでも持っていける」「いつでも起動できる」という本当の意味でのモビリティーを実現しているとも言えます。したがって、これからのモバイルPCに必要とされることは、「いつでも持っていける」「いつでも起動できる」というものになってきていると思います。

さらにアップルが送り出したMac book airも大きな要因の一つです。
上で挙げたタブレット端末は「いつでも持っていける」「いつでも使える」というものですが、OSはスマートフォン用の延長線上にあって、マルチタスクを行うことができても「マルチウインドウ」で作業を行うことはできません。また、軽い動作が行えると言っても、なかなかタブレット端末でオフィス系ソフトを使って仕事がしたいか、と言われると疑問符がつくでしょう。
こう言ったタブレットの弱点要素を潰しつつ、タブレット端末のいいところを合わせ持つPCがMac book airです。「薄さ」「軽さ」そしてSSDによる「高速起動」によって「いつでも持っていける」「いつでも使える」というモビリティーを実現しています。

このようなソニー以外から出される新しいモバイルPCに対するアプローチが、旧来のZシリーズの性格を変えたのだと思います。以前も指摘したように、Zシリーズは軽いけれども薄くはなく、「いつでも持ち運び」、「いつでも使える」という要件は満たしていません。単に「高性能を詰め込んだモバイルPC」と言うスタンスでは、いわゆるZシリーズの購買層であるアーリーアダプターの共感を得られないと思います。

改めて新Zを見てみれば、こう言った要求に応える機種であることが分かります。「薄さ」「軽さ」そして進化したSSDによって18秒で起動する「高速起動性」...今回の目玉はやはりタブレット端末やMac book airのような薄型モバイルPCを意識して作られていると思います。
また、Mac book airのような薄型モバイルPCと同じフィールドに立つだけでなく、通常電圧CPUを搭載することにより、モバイルPCユーザーが抱える「低電圧のCPUは、実際の使用にちょうどいいCPUだけど、大きな負荷には耐えられないだろう」という漠然とした不安に対しても一種の安心を与えていると思います。現実問題i7プロセッサを用いて、ターボブーストで最大3.4ghzまで駆動させるモバイルシーンというものがあるかどうかは非常に疑問ですが、通常電圧CPUが乗っているという事実が、「どんな処理でも問題なく行える」という安心感を生み出しています。
さらに、Power media dockを別途取り付けることで、より限定的なシーンでの性能発揮ということもでき、性能に不安なし、というアピールが随所に散りばめられていると感じます。

今回Power media dock(以下PMD)を同時購入しないという選択肢が増えました。これもこうしたモバイルPCへの要求に応じたものであると考えられます。従来のZシリーズのスタンスからすればPMDをセットで付けて売ればよかったのです。しかし購入しないという選択肢があるということは、外付けGPUやドライブを使っての動作をあまりせず、単純に「ハイパフォーマンスモバイルPC」がほしいというニーズを拾っていると思います。
また設定価格が大幅に抑えられているのもひとつのポイントだと思います。PMDを買わず、そしてベース性能を選ぶと、発売直前で144,800円、これからのキャンペーン適用によってさらなるベース価格の下落を考えれば、かなり買いやすいモデルです。参考までに13インチで128GBSSDのmac book airが118,000円ですから、mac book airに3万円をプラスするだけで(これからもっと差が縮むと思います)通常電圧CPUでMac book airと同じぐらい薄く(MBAは1.7cm Vaio Z2は1.655cm)、7時間駆動を実現するというかなり魅力的なモバイルPCとして捉えることができるのです。

長々と考えてみましたけど、今回のZの挑戦、変革で得られたものはすごく大きいと感じます。今後はクラウド型OSで、タブレット感覚で扱えるChromeOSを搭載したモバイルPCや、タブレット端末でAndroid勢が飛躍したり、MacもLionを搭載しよりタブレットライクになっていく、という激動のモバイルPCの中でZが生き残れるだけの、ポテンシャルを秘めたモデルに成ったと実感できました。
たしかに外付けにGPUとドライブを追いやったことをZでやるかどうか、というのは議論の余地が残るところです。しかし、ソニーが自信をもって送り出せる「Z」というモデルであるからこそ、こう言った積極的な攻勢に出られたのだと思います。「Z」だからできること、それを行うのがZシリーズの使命であり宿命なのかな、と思いました。