ソニーが開発する電子ペーパーは学生の生活を変えることが出来るのか?

デジタルペーパー端末をソニーは2013年度内に製品化するという報道が出された。


「紙のデジタル化」により学習効果や生産性の向上を支援する「デジタルペーパーソリューション」の実現を目指し、13.3型の「デジタルペーパー」端末を開発
− 実証実験を早稲田大学、立命館大学、法政大学と2013年度後期より実施予定 − http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201305/13-058/


ソニーは主に教育分野(特に大学)や大量に紙を消費するオフィスなどでの需要を見込んでいるようだ。この端末はWifiに接続し、ネットワークを介してpdfファイルのダウンロードが可能のようだ。この端末は従来のタブレットと比べれば格段に軽く、(358g)また持ち歩きにも便利な薄さである。手書きようのスライタスペンも付属し、従来の紙媒体と同じようなインターフェースを保ちつつ、デジタルの良さ、すなわち、デジタルデータならではの、かさばらない、検索のしやすさといったことが期待できるであろう。今まで電子書籍と言った分野だけにとどまっていたペーパーレスの方向が、更に拡大する可能性を秘めている。

一見、これからのデジタルペーパーの時代を先取りするような商品であるが、この製品は学生をはじめとしたペーパーレスのニーズに対応できるであろうか?



 ネットワーク接続力への心配


ソニーの電子ペーパーは、E-inkと呼ばれる電子ペーパーをディスプレイに用いている。このディスプレイを搭載してきた主な端末はKindleを始めとした電子書籍端末が中心となっている。


 Wikipedia 電子ペーパー -http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E5%AD%90%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC


電子ペーパーの良さはやはり低電力で作動するために、長時間使用することが出来る点である。実際ソニーの電子ペーパー端末でも充電なしに3週間の駆動が出来ると謳っている。しかしながら、ここから推測されることは高度なCPUを持ち合わせていないということである。デモ動画を見ると、一応ながら電子ペーパーには内蔵ブラウザが付いているようで、インターネットからpdfファイルをダウンロードできるようであるが、PCやタブレットと同様な動きを行えるブラウザではないように思える。

ここで、私が指摘しておきたいのは、現在大学の中では講義資料のデジタル化が進んでおり、学生の授業支援システムから講義資料をダウンロードして講義に臨んだりしている。しかしながら、このような授業支援システムのページは、複雑なユーザー認証を必要としており、PCに搭載されているようなブラウザでないと正常に作動することができない。
現に、Androidはこのような大学の授業支援システムからダウンロード出来ないだけでなく、basic認証が施されたページからのダウンロードに失敗する。


 Androidの標準ブラウザやChromeでPDFのダウンロードが失敗したら「BASIC認証」を疑え - http://kinsentansa.blogspot.jp/2012/10/androidchromepdfbasic.html


Androidがダウンロード出来ないからこの電子ペーパーが複雑なユーザー認証をもつようなページでダウンロード出来ないという理由にはならないが、私はこの点に関してかなり心配している。
この電子ペーパー単独でダウンロード出来ないとなると、ユーザーは事前にPCなどでpdfデータをダウンロードしておき、それをSDカードに入れて、端末でみる、というスタイルになるが、僕も現在このスタイルになっているが、非常に面倒くさい。手間としては、事前にPCでpdfデータにアクセスし、印刷するのとあまり違いはない。むしろ転送するだけ面倒くさいといえる。多くの人がこの端末を使って、ハッピーになるためには、その端末自体で、どのようなサイトからもダウンロードできるような汎用ブラウザを搭載しているのがやはり望ましいだろう。難しい課題ではあるが、ぜひとも製品化までに達成して欲しい条件だ。



大学の電子ペーパー支援への取り組みへの心配



もちろん、上記の問題を解決するには、大学側のシステムの最適化も望まれる。今までPCでアクセスされることを前提に作られてきた授業支援システムを見直し、電子ペーパー端末といったような端末からも簡単にアクセスできるようなシステムに作り変える必要があるだろう。とくにE-inkを搭載している端末は画面の切り替えが遅く、ダウンロードするのに複雑な手間をかけるものはユーザーのストレスを招き、敬遠されるであろう。これからの端末の多様性を見越したシステムの改善が強く望まれる。しかしながら、電子ペーパー普及のために大学が行うべきことはこれだけではない。

まずは電子書籍の普及である。今までにも電子書籍は娯楽を目的をした書籍よりも、大学で多く用いられるような専門書のほうが向いていると言われてきた。専門書は中に書いてある知識を目的に書かれているものであるから、これらの本を電子化することによって、書籍の中身をある種のデータベースのように扱うことが出来る。これらの専門書はアナログの状態では大きくかさばり、そして重かった。これらの専門書こそ電子化されるべきだ。しかしながら、大学では依然紙書籍がのさばっている。これからは教科書もデータでの販売をしていくなどして、電子書籍のメリットを実感する機会を増やしていくべきだ。
また、大学生にとっては教科書だけの電子化は十分ではない。電子図書館への取り組みも更に加速していく必要がある。国立図書館を除いて、蔵書を大量に保管しているのはほとんど大学である。


 日本の図書館蔵書数ランキングについて -http://omiseyasan.blog18.fc2.com/blog-entry-76.html


大学生こそ専門書を大量に保持している大学の図書館にアクセスし、簡単に莫大なデータベースにアクセスできるようにすべきだ。図書館のデータベースにアクセスがしやすければ、学生も面倒臭がらずにレポートで参考文献をたくさん羅列するであろう。今の学生たちにとって、データとは検索したらすぐに出てくるものであって、あるかないかわからない、どこにあるかわからない本を目当てに図書館に行って、文献を漁るのは抵抗あることなのである。仮に、図書館の書籍が電子化されたならば、借りたい本が借りられていたということもなくなり、また前の人が引いたメモ書きにも、そして図書館の開館時間からも開放されるのである。
冗談話はさて置いても、アメリカの大学では図書館蔵書の電子化が進んでいる。


 3. 米国の電子図書館--http://fuji.u-shizuoka-ken.ac.jp/~ishikawa/library.htm#z


私の知人もアメリカの大学に通っているが、デジタルガジェットに大きな関心を持たない彼女が、何故にKindleを持っているのか尋ねたところ、Kindleがないと図書館で本が借りられないという。日本より電子書籍が普及しているアメリカであるが、学生たちの生活の中にも電子書籍、電子図書館というものはかなり普及しているようだ。

大きく話が脱線してしまったが、教育の分野で電子ペーパーが普及するためには、図書館や、教科書といった電子書籍そのものが拡大し、また電子ペーパーのハードウエア自体も様々な形で配信される電子書籍やpdfといったものに、手間を掛けずしてアクセスし、読めるような環境が整うことが必要ではないだろうか?ソニーが意欲的な商品を作れたとしても、持続的に利用できる環境が整わない限り電子ペーパーの普及は遠いものになる。各所で散々言われていることであるが、ハードとソフトは車輪の両軸であり、最近ではその配信環境そのものも重要視されている。
2013年後半より早稲田大学、立命館大学、法政大学の三大学で実証実験が行われるようなので、できるだけユーザーのニーズにあった端末が製品化されることが非常に望まれる。