PSN、Qriocityへの不正アクセスの僕なりの感想。

ずっと、書こうか、書こまいか迷ってきたわけですが、ついにこの話題にも触れておかねばならないと感じ、大変時期がずれ込んだけれど、勇気をもって筆を握ることしにます。
一回のソニーファンとしては、たいへん今回の個人情報流失には心を痛めました。結構日々の生活のも支障をきたすレベルで。きっとソニー関係者はもっと生きた心地がしないのだろうなぁ、と想像するのは難くなく、心よりご愁傷様であったと思っています。
以下に書く駄文というのは、いかにも僕らしい、ソニーファンとしての意見であって世間様と大きくずれていると思うけれども…

ソニーにおけるPSN、Qriocityの位置づけ

Qriocityの登場は記憶に新しい。

今年の1月のCES(米国家電見本市)で発表された。もう一度Qrioccityのおさらいをすると、uriocityはソニーのオンライン型コンテンツ配信サー椅子で、これからのソニー製品に標準的に搭載されていく機能だ。アップルで言うところのiTunes Storeみたいなもので、ビデオ、音楽のオンデマンド配信を行うというもの。別にこれだけ聞けば特に新しいことなんて、ないじゃない、と思うかもしれない。現時点で従来のBRAVIAには「アクトビラ」が入っているし、PCではXアプリを用いて、音楽配信サービスも受けられる。今までのオンデマンド配信と何が違うのかといえば、それはソニー製品のネットワーク対応端末が一元的なストアを持つということだ。
つまりiPhone,iPad,iTunes,Apple TVといったアップルの商品群がiTunes Storeからコンテンツを決済できるのと同様に、ソニーもコンテンツを集中的に管理するネットワークを作りましょう、という事なんだと思う。
もちろんQriocityにしかなかった発想も含まれていて、ひとつには音楽のクラウド配信がある。
これは、予めQriocityに音楽データをアップロードしておけば、ネットワーク経由でその音楽を楽しめる、ということ。つまりいちいちWalkmanXperiaにファイルをコピーしなくても、ネットワークにつながっていれば、いつでも家と同じミュージックライブラリーにアクセスできるというサービス。このサービスもすでに海外では多くの国でスタートしている。加えてネットラジオのように、好きなジャンルを指定すれば、そのジャンルの曲は聞き放題、といったサービスも始まっている。(Music Ultimate pwerted by Qriocity)
この理屈で行けば、通信が許すのであれば、例えば自宅の大画面のブラビアでドラマを見ておいて、そのままXperiaを持ち出して外出、その続きをファイルを転送すること無く楽しめる、といった新しい映像コンテンツの視聴スタイルを提供できる。

もちろんネットを使った新しいコンテンツの楽しみ方を提案した、という側面も大きいけれども、これは各分野に散らばったソニー製品を一元的なネットワークの参加に置くことで、ソニー製品群をひとつに纏め上げ、それぞれの特徴を生かしながら、連続してソニー製品を使っていくという利便性を提供できる。(例えば大画面、高画質のブラビアで視聴、外出先ではVAIOやXperiaといった使い分けができるようになる。)これがハワード体制がつくろうとしているソニーユナイテッドの象徴であって、ようやくソニーが長年目指してきた、ハードとソフトの両軸体制を実現しようとしていたのだ。
日本でもブラビアにQriocity搭載のブラビアが登場し、
いよいよQriocityが稼働し始めようとしていたのだ。


今回の事件とQriocityへの損害

こういったQriocityにアクセスできる、普及型の端末がPS3だ。アップデートによってQriocityの接続できるようになり、ソニーはブラビアを持たない家庭にでもQriocityへの導線を提供できる。ゲーム機として広く普及したPS3をQriocityへの入り口として展開する方法は、ソニーだけに許された切り札だったと思う。もちろんPS3にはPS3の(もっと言えばSCEの)動画配信サービスPlaystation Network(以下PSN)が存在していたので、QriocityとPSNは統合していくという方向は納得出来る話だった。このことが皮肉にも今回の騒動でQriocityにも甚大な被害を催す原因の一つにもなった。
ハッカーと呼ばれる人たちがPS3のコントロール権を掌握しようとPS3に挑み続けてきた。「自分が購入したものにたいして、コントロール権を掌握することは当然である」という文化を有しているハッカーが、その延長線上でPS3にハッキングを仕掛ける、というのは極めて自然なことだったかもしれない。ただ、他のXperiaなどのプロダクトと違い、PS3はソニーの基幹プロダクトであるし、PSNとQriocityという2つのビジネス、そしてゲームという本来のビジネスが直結されたPS3は、ソニーとしてはハッキングは阻止しなければならなかったのではないかと僕は思う。結果として、PS3はハッキングされた。
ここでそのハッキング方法をネットに掲載したハッカー達に対し、ソニーが法的な措置を求めたのは当然の流れであった。それを受けての報復行動と思われるサーバーへの攻撃も多発し、名実ともにソニーとハッカーを含む一部のネットユーザーとの戦争が始まった。今回の大規模個人情報流出が、そのハッカーを含む一部ネットユーザーの集団による犯行と断定されたわけではないが、状況的に彼らの犯行が有力視されている。

一億人近くの個人情報が流失したこと、そのこと自体がとても大きな事件であるが、僕があえて述べたいのはQriocityビジネスが多大な被害を被ったということだ。
オンデマンド配信のビジネスは加速していく。先日GoogleGoogle I/Oにおいて、音楽配信サービスに乗り出し、クラウド型音楽提供(ソニーで言うところのMusic Ultimate powerted by Qriocity)への参入を表明しているし、アップルもクラウド型音楽配信に積極的な姿勢を示している。アマゾンも現時点でオンデマンド配信を行ってる。こういった世界的潮流の中で、ソニーが出したQriocityが大きな挫折を味わったということは、ソニーには大きな痛手となった。大げさに言えば「オンデマンド戦国時代」の幕開けという今日に、ひとつの陣営だけに「一億人分の情報流失」という偉大なる実績がついたソニーは、最早立ち直ることができるのか本当に心配だ。ソニーユナイデットの象徴であるQriocityの成功が、コモディティ化している中で、ソニー製品に差別化要素を与える。この大いなる野望がはやくもひとつ挫折を味わった。
もっと言えばソニーだけにとどまらず、これから大きく飛躍していくオンデマンド配信というサービス体系に対して甚大な被害を及ぼした。企業側と利害が対立すれば、ネットワーク攻撃を仕掛けられ、その敗亡の先には顧客データの流失という最悪の悲劇が待っているという、オンデマンド配信というサービス体系の信用性を著しく低下させた。こういった意味で今回の事件の実行者は企業に対するテロリストであると言っても過言ではない。サービス提供者は常に潜在的なテロ行為に怯えなくてはならなくなったのだ。
利用者である私たちも、最悪の場合は自分の情報が流失することは十二分にあるのだと今一度リスクについて考えなおさなければならない。Andoroid端末の復旧で多くの個人情報がGoogleに預けられている状態で、たとえソニー製品と全く関係を持たなくても、そのリスクは常に存在すると思わなければならない。

マスメディアの論調について

報道の論調もところどころ疑問に思うことがある。もちろん、多くの人達が興味が有るのはソニーのQriocityの挫折の記事関してではなく、自分の個人情報がどうなっているのか、という事であることは十分に理解ができる。はっきり言ってこんなことを1ヶ月近く考えている僕自身が気持ち悪いぐらいだ。
「ソニーはネットワークによって自社製品の統合を進めており、ソニーにとって大きな挫折となるようです。」の一言で片付けられていることも理解している。しかし、「ハッカーとの付き合い方に問題が合ったのではないか。」という論調には賛同しかねる。サーバーに不正アクセスを仕掛けてきた加害者とより良い関係を作っていれば、という仮定条件は極めて厳しいものであったと思う。前述のようにPS3はソニーのネットワークのビジネス2つと、ゲームビジネスが重なりあった、ソニーの本丸とも言える部分において、そのシステムが破壊される可能性がある情報を提供し続ける状況で、ハッカーと円満解決という方向ができたのか、非常に疑問である。
加えて言うならばソニーに対しテロ行為を行ったテロリストに対して、「良い関係を築けなかったのか」というのは、現実の世界で起きているテロリストに対するマスコミの姿勢とは大きく違っているように見受けられる。テロが発生して、死傷者がでたとき、マスメディアは「政府がテロリストともっと友好的な関係を築いていたら」という論を全面展開するだろうか。僕はしないと思う。
僕が重ねて言いたいのは一億人分の個人情報流失というのは、あくまでもテロ行為の被害その物であって、より注目すべきはソニーに対してテロ行為というべきことが行われ、それによってオンデマンド配信というサービス体系全体に対し悪影響を及ぼした、ということだ。まるでSFのようであるが、今回起きた個人情報流失というのは、急激に突き進むクラウド、そしてオンデマンドという新しい時代のデジタル文化が尾のようなリスクを内包しているのか、ということを私たちに突きつけているのだと思う。