Sony Tabletとソニーネットワークについて。

以前より発表されていたSony Tabletがついに日本での発売が決定しました!
以前S1,S2と言われていた端末はそれぞれSシリーズ、Pシリーズと名前が変わり、ストレージサイズや、3G接続があるかないかなど、いよいよ確定した情報が出てきています。
また、ソニーストアに展示が開始され、多少触れてきましたので、その感覚と、それを交えての新しいタブレットに対する感想を述べたいと思います。
今回は毒気が多いので、純粋なるソニー信奉者の方には辛い内容が含まれております、ご注意ください。

※発表直後の私の感想はこちら

ホームユースのS、アウトユースのP

ソニーは今回タブレット端末を2モデル投入しました。赤外線を搭載し、家のAV製品のリモコン替わりに使えたりする、大型液晶を搭載しているSシリーズと、交換バッテリーを搭載可能で、折りたたむことができ、軽量なボディーで簡単に持ち運べるPシリーズの二種類です。
当初CESの発表時においては、形状の違いだけかと思われた2モデルの違いは、家の中で使うことと、外出先で使うという、明確な利用意図の違いに基づきその特徴を帯びています。僕はこの違いを全面に出してきた戦略をとても好意的に受け止めています。

というのもSシリーズを含めた9型前後のタブレット端末は、いい意味でも悪い意味でもモバイルPCとのサイズ差はあまりありません。普通のPCと比べて起動が早い(というか常時起動状態である)のですぐに調べ物がし易い、という宣伝文句も、昨今の高速起動を謳うMBAやVAIO ZというPCが登場するようになったあとでは、直接的な魅力になりうるかどうかはかなり疑問があります。
逆に家庭内で、クレードルにおいてあるタブレットであるSを軽く手にとって、自由な姿勢で(例えばソファーに横になりながら)ブラウジングを楽しむという利用も見えてくるでしょう。
また同時販売アクセサリーにクレードルなどを追加し、フォトフレームのように飾っておけるという提案もなかなか素晴らしいと思います。棚にしまってあったり、かばんの中に入っているタブレット端末を取り出し、あえてブラウジングをするというのは、あまり起きそうなことではないですが、フォトフレームのように飾ってあるタブレットを手にとってブラウジングを開始するということは十分に考えられるでしょう。
そういった意味でSをある程度家庭内での使用を念頭にモデル展開をしたことについては非常に評価が置けます。

Pシリーズもモバイルでの運用がメインとなっています。300g程度という軽さに加え、折りたたみ式であることで、コンパクトに持ち運ぶことが出来ます。また、液晶面が内側に収まるので、液晶自体に傷が入ることを過度に心配する必要がなくなり、まさに外出用という感じがします。更に上記で述べたように、交換バッテリー式であり、電源が足りなくることを想定し、ACアダプターを持ち運ぶということを防いでくれています。
また折りたたみタイプであるので、自由に見やすい角度に調整でき、キーボードを打ちながら全面にあるディスプレイを見ることができるので、ノートPCのように文字が入力できます。加えて、スクロールなども下画面で行えば、見る画面が手で隠れることなくブラウジングを楽しむことができるといった、Pシリーズならではのメリットもあります。携帯電話の大きさを一回り大きくしたというだけで、開けば大画面になるということは、持ち運びに便利であり、加えてスマートフォンとの違いを鮮明に出すことができ、非常に魅力的な一台になっていると思います。

PシリーズのWifiモデル不在について


しかしながらPシリーズに関しては苦言を呈せざる負えない状況があります。
ひとつはWifiオンリーモデルが出なかったことです。ソニーとしては外出先での利用がメインとなるので、3G回線は必須であろう、という考えに基づいたのかもしれませんが、昨今では広くポータブルwifi機器を持ち歩く習慣が(少なくともアーリーアダプターの中では)認知されつつあり、外で通信すること、イコール3G回線という図式はもはや時代遅れとなっています。もちろん3Gモデルを出すことにはなんの異論もありませんが、「3G契約がなくてもいいのなら、モノの試しで買ってみよう」というユーザーも取り残していると思います。wifiオンリーモデルが存在しないので、ドコモショップでの購入がメインになる(一応はソニーストアでも購入はでき、ここでは契約が必要ないため、実質回線契約なしということは可能。)のは、タブレット端末で業界2位を目指すというソニーにしては、あまり得策ではないかと思います。
このwifiモデルが存在しないことは、ソニーの利用者のモバイル環境を本気で想定していないのではないか、という疑問が生まれます。今秋に発表されたり、発売されるものにはPSvitaやReaderのWifiモデル、Music Unlimitatedに対応したAndroid walkmanやNWZ-A860といったWifi接続を前提とした機器が多くあります。ソニーとしてはこれらの商品の殆どを購入してもらい、ソニーサービスを受けてもらって、ソニーワールドを体験してもらおう、という考えがあるにもかかわらず、実際にそれを実行しようとすると(機器の代金を除いて考えても)毎月の通信料、しかも外出時における通信料の合計は大変なことになることは間違いありません。
重ねて言いますが、ソニーストアでは回線契約を必須としていないため、ソニーストアで購入すれば実質wifiモデルを入手することはできます。しかし、ソニーストア以外ではドコモによる販売が中心となるので、回線契約をしない買い方は非常にまれな存在になり、個人が負担する回線代の総額はやはり負担が大きくなるでしょう。更にWifiモデルが存在しないことは、Pシリーズの単価を押し上げていることには間違いなく、多くの人に手にとってもらい、ソニーネットワークを使っておもらおう、という考えに一致しているのかどうかは極めて疑問だと思います。
私からの提案といたしましては、ぜひともWifiオンリーモデルを発売し、ドコモ以外からでも購入できるようにすべきである、と言わせていただきたいお思います。

再三変わるソニーのネットワークサービスの名前

ソニータブレットはAndroidタブレットの中で、極めて一般的なスペックであり、スペックで他社製品と差別化できるとは到底思いません。まだPシリーズはあまり他では見かけない形状で差別化が図られているとはいえ、極めて凡庸なスペックはソニー製品が業界二位になれる素質があるとは思えません。しかし、ソニー製品にしかできないことがあって、それが、ソニーネットワークサービスの利便性であります。このような発想は超天才的なものではなく、ごくありふれた考え方です。したがってソニータブレットが成功するかは、ネットワークサービスの利便性、すなわちストア体型の簡潔さと、コンテンツの充実が重要な課題です。そのような背景に基づき、ソニーのネットワークサービスの名前に変更がありました。

それは、Qriocityの名前が変更になりSony Entertaiment Network(SEN)になったことです。これはソニータブレット販売に合わせて、従来展開されてきたQriocityと、ゲーム配信などを行って来たPlaystation networkが統合されてできたものです。なるほど、これはとても聞こえのいい統合で、ユーザーは一つのサービスで、様々な種類のエンターテイメントを受けることができます。ソニー製品は数多く存在し、これらがひとつのネットワークに接続されることで、その時の場所、利用目的に応じて、様々なデバイスを切り替えて使用する。これが現在ソニーが推し進めるソニー型のクラウドの中心的考え方で、あらゆるところでソニー製品を使ってもらい、またその魅力をコンテンツによって高めていく。大いに結構なことだと思います。
しかし、私は以前にも同じようなことを書きました。そうソニータブレット発表の直後です。
CES2011でソニータブレットを発表し、同時に音楽配信サービスであるMusic Unlimitedや、Video On demand powerted by Qriocityなども発表し、ソニーのクラウドサービスをどんと打ち出したものでした。これからのソニーのクラウドはQriocityとPSNがメインになって、これでソニーのネットワーク部門がわかり易くなる、と当時は思いました。にもかかわらず半年程度でQriocityはPSNと統合され、いつの間にかSENという名前に変わってしまいました。

今回の統合は、「ユーザーが同一IDで楽しめるから、利便性が向上した」というわけでもなく(なぜならQriocityのIDはPSNIDが使えたから)「QuriocityとPSNはユーザー情報漏えいによって良いイメージがないから看板を立て替えたのだ」とか言われている始末であり、あまり戦略的に行われた名称変更というイメージが有りません。
そもそも、映像配信サービスはPSNでも行われていました。それに加えて、Qriocityが登場したときは「ソニーがクラウドに対して積極的に行って行きます」というアピールが殆どで、Music Unlimitedの投入と動画配信のクラウド化以外は、大きなサービスの追加はありませんでした。
確かにクラウドという考え方そのものが比較的新しいものであって、PSNが登場した当時と時代的ギャップがあったとは言えます。しかし、サービスの変容に従って、短期間での名称変更を行ったり、配信体型をコロコロ変えるソニーには、ネットワークに対して本腰を入れ、着実なる進展を遂げようとしている、というイメージがありません。その場当たりで名前を変更しているのはあまり良い影響を及ぼすとは言えないと思います。

一概には比較で行きませんが、Appleは少なくとも取り扱うネットワークサービスはiTunes Storeに統合されていて、非常にシンプルな印象を与えています。もちろんソニーはAppleと比べて、取り扱うサービスが多いのも事実ですが、ひとつの窓口で全てが対応できるようにインフラ整備を進めていき必要があると考えます。
PSNとQriocityという名前を捨て、運営会社の名前を直々にネットワークの名前に据え置いたソニーの決断は、確かにシンプルなストア体制を演出するものを目指したものかもしれません。しかしながら現状では看板の付け替えの部分が目立ち、未だソニー内部にネットワークに対しての混乱があるように写ってしまっています。今回の名称変更と統合の混乱を早期に収束させ、未だに統合もされず、独自のストア体型を作り上げている、Rederstrore、Moraといったサービスも早急にSENに統合する必要があります。究極のことを言えば、ユーザーがソニーに対して持つIDは一つで十分です。そのばその場で作ってきたソニーのオンラインサービスをいち早く統合し、シンプルで、魅力的なストアの体制をいち早く作り上げる必要があるのです。
多くのソニーのネットワークサービスにつながるソニータブレットの登場は、このような散らばったソニーのストアの状況を統合するには良い契機です。ソニーにはいち早くソニーのネットワークサービスを統合することを目指していただきたいと、切に願っています。

コンテンツの充実を


もちろんソニータブレットの普及にはわかりやすいストア体型を創り上げることはもちろんですが、肝心のコンテンツの充実が図られなければなりません。Video Unlimitedで、ユーザーが納得できる価格で、多くの人が楽しめるコンテンツラインナップが作ることができるか。日本で一年程度前から始まったReaderStoreの品揃えをもっと豊かにすることができるか、PSSPlaystation Suite)に多くのコンテンツを用意することができるか、多くの課題が山積しています。
ReaderStoreにおいては未だに品揃えが悪い、価格が悪い、と様々な声が聞こえていますし、PSS一号機として華麗に登場したXperia playも某氏のところでは完全なる置き時計になっていて、決して充実のコンテンツが揃っているとは言えません。確かにXperia Playは日本市場での投入が噂されていますが、日本市場に来たからと言って、いきなりコンテンツが増えるというのは非常に疑問が残ると思います。
このような状況において、「Playstationの名作ゲームが遊べます」とか「電子書籍も楽しめます」と高らかに謳っても、遊ぶコンテンツ、読むコンテンツが存在しないという状況が依然としてあるのです。少なくともタブレットの投入に合わせてXperiaPlayを投入することはPSSの活性化につながると思います。いかなる手段を講じてでも、PSSやRederStoreのコンテンツ充実を行わねばならず、それがソニータブレットの、加えて今後出てくるであろう、クラウド指向のソニー製品全般の成功を占うこととなります。
逆にコンテンツを充実することが出来れば、ソニー製品のアドバンテージを作ることができます。結局ソニー全社がコンテンツの充実にどれだけ本腰を上げることができるか、それがソニー全体の運命を握っているのであって、ここが大きなソニーにおける転換期であることは間違いないでしょう。

もし、ソニー自身がハード勝負ではなく、ソフト勝負で勝負することが「ソニーらしくない」と思うのであるならば、今後一切ソニーは業界のリーダーカンパニーになることはできないだろうし、凋落の一歩をたどることとなるでしょう。黒歴史を永遠と創り上げてきた今までの手法のままでは、現在の状況を生き残れるはずもありません。加えて言えばソニーは昔より、「ハードとソフトは車輪の両輪」という考えがあり、これがソニーを飛躍させてきました。ソニーは他社にない、音楽部門も、映画部門も、そしてゲーム部門も持ちあわせているという財産を有しています。これらのコンテンツをユーザーに一番届けられるのはソニーしかいません。これらの財産をどのように活用していくか、そのためのインフラ設備をどう創り上げていくか、そしてコンテンツをいかに充実させられるか。この問題にソニーがどれだけ本気で取り組めるのか。
それらがソニータブレットの成功にかかっているし、ソニータブレットの成功なくして、ソニー発展はありえない、僕はそう思いました。